【自治体】AIを駆使して業務を革新 自治体DXの最先端 非エンジニア職員が、内製化を実現

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お問い合わせはこちら東京23区で2番目に大きい世田谷区。「Re・Design SETAGAYA」のコンセプトのもと、DX推進担当課の職員が生成AIチャットボット「Hideki」を3ヶ月で内製開発。73%の職員が業務効率向上を実感し、1日あたり約34分の短縮を達成。さらにサービスデスクボット、AI-OCR、黒塗りAIなど多彩なAI機能を次々と開発しています。
73%
の職員が業務効率向上を実感
1日34分
の業務時間短縮を達成
3ヶ月
で非エンジニア職員が内製開発
世田谷区は東京23区の中で2番目に大きく、約94万人が住む自治体です。2021年3月に「世田谷区DX推進方針」を策定し「Re・Design SETAGAYA」というコンセプトのもと、デジタル技術を活用した世田谷区の改革(DX)に取組み始めました。この取組みでは、デジタルに詳しい人からそうでない人にまで、誰もが使いやすいサービスの提供や業務改革を目指しています。

世田谷区におけるAI活用 — ボットを使った業務改善の取組み
AIチャットボット「Hideki」の開発
世田谷区は2023年4月、業務の効率化を目指して生成AI技術の活用を検討し始めました。区のホームページに掲載済みの内容の電話での問合せが多いことから、AIを使って問合せ対応を自動化できないかと考えました。
直面した課題
当初は区のホームページの情報をもとに対応する生成AIチャットボットを作ろうとしましたが、十分な精度の回答を得ることができませんでした。ユーザー単位で利用料がかかる製品を利用する場合、職員数が多い区役所では費用が高額になります。
解決への道筋
株式会社クラウドネイティブから、世田谷区が既に使用していたMicrosoft Azure上で、独自の生成AIシステムを作る方法を提案されました。同社のサポートを受けながら、DX推進担当課の職員が生成AI基盤を開発しました。
成果
2024年1月、職員が開発した生成AIチャットボット「Hideki」をリリースしました。導入した結果、職員から好評を得ました。アンケートによると、73%の職員が仕事の効率が上がったと感じており、具体的には以下の時間短縮効果がありました。
- 通常の業務: 1日あたり約34分の短縮
- 企画書などの作成: 1回あたり約77分の短縮
特筆すべき点は、技術者ではない職員が通常業務を兼務しながらも、3ヶ月という短期間ですべての工程を完了したことです。また、「Hideki」は、職員が普段使っているMicrosoft Teamsから簡単に利用でき、特別なアカウント登録も必要ありません。この取組みは、区役所での先進的なデジタル技術活用の好例となりました。
プロンプト組込みボットの開発
「Hideki」リリース後、DX推進担当課は職員からの要望に応えて、「Hideki」への新しい機能の追加を計画し、Microsoft Azure上でDX推進課の職員によって開発を進めました。
やさしい日本語変換
職員が書いた文章を、自動で平易な言葉に書き換える機能です。これにより、日本語が母国語ではない人など、区役所を利用する誰もが理解しやすい文章を作れるようになりました。

議事録作成
職員から最も要望が多かった機能です。Microsoft Teamsで行われた会議を、文字起こしデータから生成AIが議事録を自動的に作成する機能です。

「QAbot_サービスデスク」の開発
2024年4月、区役所は職員向けの「QAbot_サービスデスク」を開発、利用を開始しました。このシステムは、株式会社クラウドネイティブの支援を受け、職員でも使いやすいローコードツールを使って作り上げたもので、職員がICT機器(パソコンなど)について困った時にMicrosoft Teamsのチャットで問合せすると、ボットが自動で答えてくれる仕組みです。

具体的な機能
- チャットでの問合せに対し、FAQデータを参照して回答し、情報の出典(情報源)を明確に示す
- AIが適切に答えられない場合や、問題が解決しない場合は、自動的に担当の職員に通知して引き継ぎ、タスク管理システムに記録を残す
- 質問と回答の内容をすべてデータとして保存
- 問合せの状況が簡単に確認できる
3つの大きな改善を実現
- サービスデスクへの相談がチャットでもできるように — リリース後、サポートデスク宛ての問合せのうち、約30%がチャットボットを利用
- 問合せへの対応状況が可視化された
- 問合せ内容のデータを活用できるようになった
今後のボット開発
社内文書を参照してより適格な回答ができるRAGボットも新しく開発しました。このボットは、参照する文書を小さな部分に分けて整理することで、必要な情報をより正確に探し出せる仕組みです。
QAbot_サービスデスクの成功を踏まえ、さらに他の業務分野への問合せにも対応できるチャットボットの展開を進めています。整備済みのQAデータに加え、ドキュメントライブラリに保存されたファイルの内容を参照して対話できるチャットボットも開発しました。これにより、限られたリソースの中で、迅速に業務特化型のチャットボットを作成できる環境が整いました。
現在は区議会の議事録を活用したボットの試作・検証を進めており、検索時間や議会対応の作業時間の短縮を実現しています。今後は世田谷区の各種マニュアルを学習させ、職員の業務支援へと展開していく予定です。
上記以外にも、会議メモから議事録を作成したり、アンケート調査の自由記入回答をカテゴリ分けして有用な意見を抽出したり、議会の一般質問に対する回答文の校正にも活用されています。
世田谷区におけるAI活用 — 紙資料に関する業務改善への取組み
AI-OCR×生成AI活用
区役所では、住民や企業からたくさんの申請書類を受け付けています。新型コロナウイルスの影響でデジタル化が進み、多くの手続きがインターネットで行えるようになりました。ただし、申請が少ない手続きや、紙の書類が必要な手続きは、まだ紙での申請が必要となっています。
世田谷区がコロナ禍以前より導入している2つの技術があります。
- OCR: 書類の文字をデジタルデータに変換する技術
- RPA: 定型的な作業を自動で行うシステム
直面した課題
OCRは紙資料のデジタル化に貢献しましたが、帳票ごとの定義や精度向上にコストがかかり、単独の自治体での帳票変更ができないものもあるため導入困難な場面がありました。
解決への道筋
そこで注目したのがOCRと生成AIの組合せです。OCRが読み取ったテキストを生成AIが補正することで精度を向上させ、読取り対象項目を生成AIが抽出することで帳票定義の時間を大幅に短縮できると考えました。
成果
これまで半日から1日を要していた帳票定義処理が約1時間に短縮され、帳票の自由度も向上しました。OCRが従来苦手としていた自由記述や手書き文字の認識精度も向上しました。特に自由記述では、従来のOCR機器での50%程度だった認識率が90%を超えるケースも出てきています。既存の生成AI機能と同様に、TeamsをUIとして活用し、チャットへのスキャニングデータ投稿をトリガーとしてCSV出力する仕組みを構築しました。これにより、スキャナー本体にOCR機能を搭載する必要がなくなり、複合機能のスリム化も実現できました。
今後の展開
この機能は2025年2月から庁内での展開を開始しました。「有料ごみ処理券受領書」の読取りから始め、各部署からの要望に応じて拡大を進めた結果、機能提供から1カ月弱で10種類の帳票処理にまで広がっています。試行段階のものを含め、従来の職員による手入力と比べて処理時間が平均8時間程度短縮される見込みとなり、業務効率化と事務処理のデジタル化に大きく貢献しています。
世田谷区におけるAI活用 — 情報保護の取組み
黒塗りAIの検証
区役所では、情報公開制度に基づく情報開示請求を受け付けています。開示請求された文書に個人情報などの非開示情報が含まれていない場合は、原則として情報を開示しなければなりません。非開示情報が含まれる場合でも、該当箇所を被覆することで開示可能な場合は、情報を開示する必要があります。
直面した課題
開示請求を受けると、職員は対象文書を確認し、非開示情報の有無と根拠規程を精査します。そして、どの文書のどの部分を、どの条文に基づいて非開示とするかを明示した文書を作成し、請求者へ通知するとともに、非開示箇所の被覆作業を行います。対象文書は時に数百枚を超えることもあり、職員が1枚1枚を手作業で確認する負担は大きいです。
解決への道筋
生成AIを活用し、情報公開条例の非開示情報の条文および運用解釈に基づいて、非開示候補となる項目を自動的に抽出できないか検証しました。この取組みから生まれたのが、通称「黒塗りAI」です。文書の中から非開示情報を自動的に検出するAI技術で、非開示の可能性がある情報を根拠条文とともに提示し、例外的に開示可能な情報についても判断材料を提供できました。
今後の展開
世田谷区は、最終的に被覆処理まで一貫して行えるソリューションの導入を決定しましたが、この検証により、ツール導入による業務改善のために、真に必要な機能は何かということが明確化し、コスト検証を適切に行うことができました。さらに、このツールを活用して、特定の条件や基準に当てはまる記述をドキュメントの中からピックアップするツールとしての応用可能性も検討しています。
職員にインタビュー
2024年にチャットボットを内製以来、2025年には数々の新技術も自ら企画の上で開発されました。どのようにしてこれらの課題を発見し、解決策を考案されたのでしょうか。
金澤氏
職員である自分達が、生成AIに関する知識を身に着けているということが最も大きなことであったと思います。これまでの業務でこんなことが面倒だった、こんなことを手伝ってもらいたかったという経験をもとに課題を探り、では生成AIでは何が支援できるかということをこのプロジェクトで身に着けた知識をもとに立案し、スピード感をもって開発、検証、実装に移せていると思います。
我々の支援をしてくださっているクラウドネイティブの皆さんも、スピード感をもって対応してくださるので、とても助かっています。
生成AIなどの技術を内製化する過程で、最も困難だった課題は何ですか。また、その課題をどのように克服されましたか。
金澤氏
日々技術が進歩していくので、新しい情報やできるようになったことをキャッチアップして、自分たちが使えるものであるかを理解することや、行政機関としてのセキュリティを保ちながら、安全に取り入れられる技術であるのかを検証すること等が、毎回課題となります。いつもクラウドネイティブのエンジニアから、知見を授けていただきつつ、乗り越えていっています。
今後の展望や、今計画中の機能があればお聞かせください。
井上氏
今後は、より広く職員の「こんなことができたらいいな」を集めて、多くの職員の支援をしていきたいと考えています。現在、世田谷区のデータをもとに対話ができるチャットボットの検証を行っています。学習に用いるデータも、整備されたものではなく手持ちのものである程度の精度が出るように調整しています。
手間なく、必要な範囲のデータのみからすぐに作れる、使えるものを職員に提供していけたらと思っています。
また、かねてより課題となっている、区民の皆様に向けたサービスの提供についても、仕組みの検討を続けています。安全に、精度よくサービスを提供するための課題は多く残っていますが、粘り強く挑戦していきたいと思っています。
まとめ
世田谷区では区役所内部での利用に引き続き、生成AI技術を区民や事業者向けの行政サービスにおいても活用することで、行政サービスの改善を図ることができないか、機能の研究や検証を続けています。
生成AIのような先進技術であるからこそ、区役所職員が自ら新たな技術を活用できるようになることで、様々な行政サービスへの応用や向上に主体的かつ継続的に取り組めるようになることが期待されます。
今後も世田谷区は、株式会社クラウドネイティブの伴走型支援により生まれる職員の能力開発という効果を活かしながら、情報セキュリティを確保しつつ、行政サービスの利便性向上や区役所業務及び区全体のデジタル化の推進に貢献していきます。


